今日も逝き損ない

言えないことをつらつらと。

かわいいに取り憑かれた女

私は"かわいいに取り憑かれた女"だ。


読むだけ時間の無駄なので暇で暇で仕方のない人だけ読んでくれ。


私は地方で細々と女子大生をやっている。頭は取り立てて良くもないが、親にこれ以上迷惑はかけるまいと学費があまりかからないところに頑張って入った。そこで死にたいなりにも学生ライフを謳歌している。

ここまで来るのにも相当な労力がかかった。けれども未だに私は人間のスタートラインに立てている気がしない。


小学生。頭は悪かったが人並みに可愛いものが好きだった。たとえ自分の体型に後指をさされ陰口を叩かれても可愛い服を着るのが大好きだった。

中学生。普段着が制服とジャージになった。運動部に入ったからだ。顧問に人格を否定され続けようとも何故か辞めなかった。体力はついたがカロリーが身体から出て行くごとにストレスで過食を繰り返していたので実質プラマイゼロ。何も変わらなかった。親からは「お前の脚は太くて短くて醜い」と言われた。今は気にするなと慰められるが未だに覚えている。肌荒れも酷かった。そんな顔でよく外に出られるなと言われた。けれども可愛い服を着るのは大好きだった。母親が定期購読していた化粧品の雑誌を見るのが好きだった。大きくなったら瞼にはこの色を、唇にはこの色を、爪にはこの色を。日々妄想しては楽しんでいた。


「お前の容姿は中の下」。これは父親から投げられた言葉だ。


高校生。とうとう人前に出られなくなった。県内でも屈指の進学校に入ったが半年で辞めた。部屋から出られなくなった。毎日泣いていた。会う人会う人が自分の悪口を言っているように聞こえた。騒がしい教室の声が全て自分を侮辱するような言葉で溢れているように感じた。

病院にも行った。この頃から薬が手放せなくなった。明確な自死を意識し始めた。身体が痩せ始めた。

通信制の高校に転校した。人と話す必要がないのは楽だった。けれどもそこには容姿の華やかな人達がたくさんいた。髪の毛が緑色の人を初めて見た。ピアスを開けている人を初めて見た。化粧をして学校に通う人を初めて見た。私もああなりたかった。でも私は可愛くないから。不細工だから。目を逸らしながら卒業した。

一年間予備校に入って死に物狂いで勉強した。正直なところ、通信制の高校で学べることなんてたかが知れている。外部の環境に飛び込んで受験のための知識を必死に詰め込むしか大学に入る道はなかった。

そこには中学の時の同級生がいた。どうか私のことを忘れていてくれと願っていた。

知り合いすらも作らず通ったおかげで第一志望の大学に合格した。ここが今の私の居場所だ。


大学に入ってからは人生が一変した。

私のような化け物みたいな人間はいない。皆キラキラしていて眩しかった。ずっと人と喋らず生きてきた人間にとっては過酷な場所だった。努力の日々がまた始まった。人間にならなきゃいけない。人間にならなきゃいけない。その意識だけが私を突き動かした。他人と笑ってコミュニケーションを取り、容姿を磨き、更に勉学に励む。知らないなりに化粧をし始めた。いつしか部屋が化粧品で溢れるようになった。人並みに見てもらえるようにと服も揃えた。管理しきれない衣類が溢れていった。頑張った。初めは頑張った。頑張った。頑張った。頑張った。


一年の夏に倒れた。体重を測ったら入学時とは比べものにならないほど痩せていた。気づけばあんなに太くて醜いと揶揄されていた手足はいつの間にか「爪楊枝みたい」と言われるようになっていた。薬の量は飲み始めた時の2倍以上。錠剤を手に取る度生きているのが嫌になった。

もう頑張れなくなった。


そこから人生に手を抜き始めた。適度にこなして適度にやろう。医者から言われた言葉を守って、励まされた分生きて。


でもそれでも"かわいい"だけは私を離してくれなかった。寧ろそこだけがどんどん私を蝕んでいった。せめて容姿は人並みに。可愛くあれ。可愛くあることに手は抜きたくない。頭から何故かついて離れなくなった言葉。

髪を染めた。ピアスを開けた。

建前は「やりたかったからやった、それだけ」。でも根底には幼少期からの容姿へのコンプレックスが滲んでいる気がする。昔の自分と縁を切りたくて自分を変えようと足掻いた。でも足掻いても足掻いても背後には昔の自分がいた。可愛くなれば過去と縁を切れると信じて今も走り続けている。けれども他人からの言葉というのは恐ろしい。「クラスで一番のデブス」「髪切ったの似合わねーよ」「汚い」「死ね」未だにまだ何処かで言われている気がしてならない。もう痩せすぎで年に数回は倒れる身体なのに。ロングにしたら周りにびっくりされる髪なのに。今も昔も毎日お風呂に入ってるのに。ずっと死にたいのに。


昔の友達からは「見た目も性格も変わったね」と言われた。でも私は本当に変われたのだろうか。あの頃の自分が恨めしそうにこちらを見ている。


そろそろ楽になりてぇな。


夏休みに入ったら髪をブリーチして明るくしようかと思っている。毎日何色にしようかなと髪色を検索するのが日課になりつつある。見た目だけ変えても人間は変わらないのにね。